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遺言に斜線を引いた場合、遺言は無効になりますか?(最判平成27年11月20日判タ1421号105頁)

事例判断とも言えますが、遺言に斜線を引いた場合、遺言は無効になるとの判断がなされました。

遺言にはいくつかの種類がありますが、そのうちの一つとして自筆証書遺言があります。自筆証書遺言は、第三者の関与なしに遺言者が単独で作成することができます。

そのため、遺言作成後に、遺言者がやはり違う内容の遺言を作成したいと考えることも少なくありません。

この場合、遺言者が後から違う内容の遺言を作成すると、後に作成された遺言が有効となり、前に作成された遺言のうち、後に作成された遺言と抵触する部分は撤回されたものとみなされます(民法1023条)。

このように明確に結論づけられる場合であれば良いのですが、自筆証書遺言に斜線を引くなどの民法で明確に定められていない方法によって自筆証書遺言に手を加えられていることがあります。このようなことが遺言者が亡くなってから発覚すると、その遺言の有効性が争われてしまうという事態に発展しかねません。

ここでは、遺言の左上から右下に一本の斜線が引かれたという場合について説明いたします。

最判平成27年11月20日判タ1421号105頁

この判例の事案は、自筆証書である遺言書について、その文面全体の左上から右下にかけて赤色のボールペンで1本の斜線が引かれていたというものです。

法律上は、民法1024条前段の「遺言者が故意に遺言を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。」との規定の適用の有無が問題となったのですが、この事案を普通に考えると、赤で斜線を引いているのだから破棄したと解することは何の問題もないのではないかと感じられるかもしれません。

しかし、民法968条2項は「自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印をおさなければ、その効力を生じない。」と自筆証書遺言の変更の方式を明確に定めています。

したがって、この事案では、民法1024条前段を適用して「破棄」したと認めるべきか、それとも民法968条2項を適用して、この方式に従っていないのであるから「変更」でないとみるべきかが問題となりました。

遺言は、例えば「長男に遺産の全部を相続させる」というような相続人全員の利害に大きくかかわる記載がなされているのが通常です。逆に、例えば、「長男に遺産の全部を相続させる」という遺言が取り消されて法定相続分に従って分配されることになれば、他の相続人に多額の遺産が入ることになります。

もちろん、遺言によって相続できなくなった相続人らは遺留分侵害額の請求を行うことができるのですが、多くのケースでは、法定相続分と遺留分では額が非常に大きく異なることになりますから、遺言が撤回されたか否かは相続人らに非常に大きな影響を与えることになります。

以上のような事情に加え、遺言の有効性を争っている段階では、遺言者はすでに亡くなっており、撤回するつもりであったのか否かについて遺言者本人に確かめることは叶いません。したがって、撤回の方式を明確に定めておかないと、後の争いを引き起こすことにつながってしまいます。

このような背景から、撤回の方式を定める民法968条2項の規定が存在していることからすれば、同項の方式に従わない遺言の改変は全て変更と認めないとすべきではないかという考え方も充分あり得るところです。

そのため、通説は、遺言書に対して元の文字が判読できる程度の抹消を行った場合は、民法1024条前段を適用して遺言書を「破棄」したと扱うことはせず、遺言書の「変更」として扱うとしたうえで、その変更が民法968条2項の要件を満たさない限り変更の効力が生じないと考えております。

本件についても、斜線を1本引いたというだけでは、元の文字の判読は容易に可能です。したがって、本件の控訴審判決は、民法1024条前段の「破棄」にはあたらないとしたうえで、民法968条2項の要件を満たすかどうかを検討し、斜線のあたりに押印するなどの同項の定める要件を一切満たしていないため、変更の効力が生じず、元の記載通りの効力を有する遺言として取り扱うべきであると判断しました。

このような結論は、確かに以上のような論理構成のもとでは理解できるところではあります。しかし、遺言者が遺言書全体に赤で斜線を引いているという事実からみれば、遺言を有効とするのは非常に不自然なように感じます。

最高裁判所も、赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引くという行為は、その行為の有する一般的な意味に照らして、「遺言書の全体を不要のものとし、そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の現れ」であるとみるのが相当であると判示して、遺言書の「破棄」に当たり、遺言は無効であると判断しました。

まとめ

本判例は、その立論自体は非常に明瞭であり、強い説得力を持つようにも思われます。しかし、あくまでも事例判断の一つと捉えるべきであると当事務所としては考えております。

本判例では、遺言書が発見された段階では、すでに封が切られていたものの、その他の様々な事実関係から、遺言書に斜線を引いたのは遺言者自身であると裁判所は認定しています。

この点については、例えば、その遺言によって利益を受ける方が遺言の第一発見者である場合、封をされている遺言書の封を切って細工をするようなことはしないでしょう。他方で、不利益を受ける方が遺言の第一発見者である場合、封をされている遺言書の封を切って遺言書に斜線を引き、元に戻して検認の手続を受けるという可能性も十分あり得ます。

このように、同じ斜線を引かれた遺言書があるという場合であっても、実際には様々な可能性が考えられるところです。この判例が出たからといって、「斜線を引いた遺言書は全て無効である」と考えるのは非常に危険です。

本来、遺言書は、後々相続人間で争いにならないために作成するものです。正式な方式に従って作成し、撤回・変更する場合も適切な手続を利用して行うことが、争いを避けるために必要不可欠であると考えます。

 

※本ページの記載事項は、記載時点における法律、状況等を前提にして記載しております。

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