富山県弁護士会所属
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特許法は、発明者が発明を権利化して一定期間独占的に利益を得るのを肯定することで発明につながる技術開発を奨励し、これと同時に、発明を公開させて新しい知識・技術を社会が共有できるようにすることで後に続く技術開発を促すことを目的としています。
企業と特許法の関わりは、
という権利者としての関わりの他、
といった場合のような、侵害者になることを回避するという関わりも想定されます。
近年では、地方の中小企業も、直接的に、あるいは取引先の大企業等を介して、世界中の企業と関わりを持つことが増えてきていますので、必然的に、他企業から権利を侵害されたり、逆に侵害の疑いをかけられるというリスクは高まっているといえます。
したがって、企業の大きさや所在地に関わりなく、特許法を中心とする知的財産法について知ることがとても大切です。
このページでは、特許法の基本的な仕組みにつきご紹介いたします。
特許権の対象となるのは「発明」です。
特許法2条1項は、発明について、
この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。
と規定しています。
以下において具体的に見ていきましょう。
自然法則とは、「自然界において経験的に見いだされる物理的、化学的、生物的な法則性をもつ原理・原則」のことをいいます(「標準特許法」第5版 高林龍 P26)。
自然法則の「利用」ですので、単に自然法則を発見したこと自体は発明に当たりません。
「技術的」というのは、個人の技量に関わらず、その分野の通常の知識を有する者であれば反復して同様の結果に到達できるものでなければならないということを示しています。
また、発明は「思想」であって、発明の結果産み出された「物」ではないとされています。
発明には、自然法則、物の未知の性質、天然の化学物質等を「発見」するだけではなく、それを特定の用途に利用したり、有用性を見いだしたりする等の創作性が求められます。
特許法上の「発明」は、実用新案法上の「考案」とは異なり、「高度のもの」でなければなりません。
特許法は、発明を「物の発明」と「方法の発明」に分類しています。
上に述べたとおり、発明は技術的「思想」ですが、物の発明とは、発明が「物」として具現化される場合をいいます。
なお、特許法2条3項1号は、物の発明の実施について「物(プログラム等を含む、以下同じ。)」と規定しており、無体物であるコンピュータ・プログラムの発明も物の発明に含まれることを明らかにしています。
方法の発明は、
の2つに分類されます。
「方法の発明」は、「○○を利用して…××をする方法」という形で表現できる発明で、実施した結果として物が生産されることはない発明です。
「物を生産する方法の発明」とは、「○○をして…△△を製造する方法」という形で表現できる発明であり、その方法を実施した結果として物が生産される発明です。
特許権は強力な権利であるため、特許法上の「発明」であったとしても、全てについて特許がとれるわけではなく、特許法に定める以下の要件を満たさなければならないこととされています。
これらの要件につき、さらに詳しく見ていきましょう。
学術的、実験的にのみ利用できるものではなく、何らかの有用性がなければならないとされています。
発明は既存のものではなく、新しいものでなければなりません。具体的には、
という要件が課されます。
したがって、特許出願前に製品化して販売したり、学会で発表したりしないよう注意が必要です(もっとも、新規性を失ったケースについても、所定の要件を満たせば特許を受けられることがありますので、このような場合は早急にご相談ください。)。
進歩性があるとは、特許出願前に、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(「当業者」といいます。)が容易に創り出すことができない発明であることを指します。
これまで多くの判例や審判において、進歩性の有無が争われています。
特許出願ができるのは、発明者または発明者から特許を受ける権利を承継した者だけです(発明者主義)。
では、発明者とは具体的に何をした人のことを指すのでしょうか。そして、特許を受ける権利とは具体的に何ができる権利のことを指すのでしょうか?
裁判例では、発明者とは、「技術的思想を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創作活動に関与した者を指す」とされています。
すなわち、発明の本質的部分に寄与した者のみが発明者であるといえます。例えば、研究チームの管理者として研究テーマを設定したり、一般的な助言を与えた者は発明者にはあたりません。資金や設備を提供をしたにとどまる者も、発明者ではありません。
もっとも、研究チームで複数の研究員が重要な貢献をして発明を完成させた場合等、複数の者が1つの発明の発明者になることもあります。
また、このような性質上、発明者は自然人に限られます。
発明者は、発明をすることで「特許を受ける権利」を取得します。
特許を受ける権利は、特許登録以前の段階において生じている権利ですが、この特許を受ける権利自体を譲渡することも可能です。特許出願前における特許を受ける権利の承継は、その承継人が特許出願を行うことで第三者に対抗することができます。
また、特許を受ける権利を有する者は、その特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、仮専用実施権や仮通常実施権を設定することができます。これらは、特許権の設定登録がなされた時点で専用実施権や通常実施権になります。
特許を受ける権利を複数の者が共有している場合には、全員が共同で出願しなければなりません。
特許法は、職務発明について、一定の要件を満たす場合には、使用者に特許を受ける権利を取得させたり、使用者に特許権を承継させたりすることを認めています。
職務発明とは、従業者等が、その性質上使用者の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至った行為がその使用者等における従業者の現在又は過去の職務に属する発明のことをいいます。
職務発明について、使用者に特許を受ける権利を取得させたり、使用者に特許権を承継させたりすることを定めるには、契約や就業規則等でその旨の取り決めをすることが必要です。
また、使用者から発明者である従業者等に対し、「相当の対価」を支払うことも必要です。
「相当の対価」がいくらかについては、まずは契約や就業規則等で定めた額ということになります。しかし、このような定めをしていない場合、または定めた額が不合理と認められる場合、特許法は、「その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情」を考慮して相当な対価を定めるべきと規定しています。
特許を受けるには、まずは願書を特許庁長官に提出(特許出願)することが必要です。そして、願書には、明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付しなければなりません。これらのうち、メインとなるのは明細書と特許請求の範囲です。
明細書には、発明の名称、図面の簡単な説明、発明の詳細な説明を記載しなければなりません。
発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければなりません。また、その発明に関連する文献公知発明を知っていれば、これが記載された刊行物の名称等の情報も記載することが必要です。
特許請求の範囲のことを「クレーム」と呼ぶこともあります。
特許請求の範囲は、出願人が特許を受けようとする内容を明示したものであり、出願書類の中でも非常に重要なものです。
特許請求の範囲は、請求項に区分して、各請求項ごとに出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項の全てを記載しなければなりません。
また、特許請求の範囲の記載は、
等の要件も満たさなければなりません。
したがって、特許請求の範囲の記載は、これらの要件を満たすよう、明確かつ具体的に記載しなければなりません。他方において、特許請求の範囲の記載を具体的にすればするほど、特許権の及ぶ範囲が狭くなることにつながるという側面もあります。
出願人としては、発明者や弁理士等の専門家と共に慎重に検討しあって、この両面の兼ね合いを工夫して明細書を作成することが必要となります。
方式審査を通過した出願は、出願から1年6ヶ月を経過すると特許公報で公開されます(この特許公報は公開公報と呼ばれます。)。
出願が公開されると、発明を模倣される危険が生じます。
しかし、特許権はあくまで設定登録されることによって生じるものであるところ、出願公開はされたものの登録には至らなかったという場合も数多くあります。
そこで、特許法は、出願公開された発明への模倣については、書面による警告等の手続きを踏んだ上で、特許権の設定登録後に、一定額の補償を請求できるものと定めています。
上に述べた通り、特許出願から1年6ヶ月を経過すると出願公開がなされますが、その後、特許出願から3年以内に審査請求があった場合に限り、特許出願の実体審査が行われます。
審査請求は、出願人に限られず誰からでも行うことができます。
審査官の審査の結果、特許出願について拒絶理由がなければ特許査定がなされます。この場合、特許料の納付等を経て特許権の設定登録がなされ、特許権が発生します。
拒絶理由があると審査官が判断した場合、出願人には事前に意見書の提出や補正の機会が与えられますが、それでもなお拒絶理由が解消しない場合には、拒絶査定がなされます。
審査は請求項ごとに行われ、出願人には請求項ごとの拒絶理由が通知されます。特許請求の範囲の請求項のうち1つでも拒絶理由があるものが含まれていれば、特許出願全体が拒絶査定されることになるので、注意が必要です。
拒絶査定を受けた者は、査定の謄本送達があった日から3ヶ月以内に拒絶査定不服審判を請求することができます。
他方、特許査定がされた場合も、その特許権に無効原因があると主張する者は、無効審判を請求することができます。無効審判は、請求項ごとに請求することが可能です。また、無効審判は、特許権が存続期間満了等で消滅した後でも請求することができます。
特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有します。
「業として」なので、個人的にまたは家庭内での実施には及びません。すなわち、特許権者以外の者が完全に家庭の中だけで特許発明を実施しているような場合は、特許権侵害とはなりません。
「実施」については、特許法2条において以下のように定められています。
そのため、例えば、「特許権者Aが特許発明を実施して生産した商品を、Bが正規ルートで購入し、Aには断りなくCに譲渡した。」という場合、一見するとBの行為はAの特許権を侵害しているようにも思われます。しかし、このような場合に、正規ルートで商品を購入しているBのような者までもがいちいちAに転売の許可を得なければならないとすると、取引の円滑性が妨げられます。また、Aはすでに商品を正規ルートで流通に置いているので、その際に利益を得ることは十分可能であったものといえます。
したがって、このような場合は、例外的な事情がない限り、Bの行為は特許権侵害には当たらないとされます。
なお、類似する問題として、特許製品の並行輸入の可否という問題もあります。これについては、特許権の効力は国単位で独立していることから、製品に輸入販売禁止の表示があるか否か等の異なる観点から結論が出されるべきものです。
特許権者は、特許発明を実施する権利を専有、つまり独り占めして、他者の特許発明の実施を禁止することができます。
特許権者は、自ら特許発明を実施するのみならず、ライセンス契約等によって自らが選んだ他者に実施させることができます。
なお、特許権者の意図とは関わりなく、法律上当然に他者に実施権が与えられる場合もあります。
ここでは、主に特許権者が自ら他者に付与する実施権についてみていきます。法定の実施権については、職務発明の場合に使用者が取得する実施権についてのみ簡単にご紹介いたします。
特許権者は、他人に特許発明を実施させることができます。典型的なのは、特許発明を他人に実施させ、その対価を受け取るような場合です。
特許権者が第三者に付与する実施権には、通常実施権と専用実施権の2つがあります。
1.通常実施権について
通常実施権は、非独占的に特許発明を実施しうる権利です。通常実施権者は、自分だけが特許発明を実施できるというわけではなく、1つの特許権について何人もの通常実施権者がいても構いません。
もっとも、通常実施権者が、「特許権者に、他社に対しては通常実施権を許諾して欲しくない。」と望み、特許権者もこれを受け容れてこのような契約をすることもあります。このような内容の通常実施権を、独占的通常実施権といいます。
また、特許権者と通常実施権者との間で「通常実施権者の同業者には通常実施権を許諾しないでほしい。」という旨の契約をするということもあります。
しかし、仮に特許権者がこれらの契約に違反して第三者に通常実施権を与えたとしても、あくまで特許権者に対して契約違反の責任追及ができるにとどまります。通常実施権者が第三者の特許発明の実施を止めることができるわけではありません。
2.専用実施権について
専用実施権は、設定行為で定めた範囲内において独占的に特許発明を実施できる権利です。
専用実施権を設定した場合、特許権者自身も設定行為で定めた範囲においては特許発明を実施できないこととなります(例えば、専用実施権の範囲を「北海道における生産・譲渡」と設定した場合、特許権者自身も北海道で特許発明品を製造販売できません。)。
専用実施権の設定は、特許原簿に登録しなければ効力を生じません。
職務発明について、使用者が特許を受ける権利や特許権を得なかったとしても、使用者は、無償かつ実施の範囲に無限定の通常実施権を取得することが、特許法において定められています。
もし、発明者である従業員が第三者に特許を受ける権利を譲渡したとしても、使用者は譲受人に対して法定通常実施権を主張できます。
もっとも、特許を受ける権利や特許権自体が第三者に譲渡されていくのを止めることはできず、また、通常実施権なので、特許発明を独占的に実施できるわけではありません。
そのため、職務発明の取り扱いについては、あらかじめ就業規則等で、使用者が特許権者になれるような方法を採っておく方が確実といえるでしょう。
特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれのある者に対して、現在の侵害の停止又は将来の侵害行為の予防を請求することができます。
また、これらの請求をするに際し、侵害行為を組成した物(物を生産する方法の発明の場合、侵害行為によって生じた物を含む)の廃棄、侵害行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができます。
また、特許権侵害について不法行為に基づく損害賠償請求を行うことも可能です。不法行為に基づく損害賠償の場合、請求する側が侵害者の故意又は過失、損害額を立証しなければなりません。
この点につき、特許法は、権利者側の立証の負担を軽減するための規定を置いています。
まず、特許権等の侵害をした者には侵害行為について過失があったものと推定する旨規定しています。実際、侵害者側がこの推定を覆すことはほとんど不可能であると見られています。
また、損害額についても、特許法が定める算定方法に基づいて算定した金額を権利者の損害と推定する旨の規定が置かれています。
さらに、具体的態様の明示義務、権利行使の制限、書類の提出・鑑定等の、訴訟における証拠収集の困難を救済する規定や、秘密保持命令等の権利者の営業秘密が訴訟をすることによって明かされてしまうのを防ぐための規定も存在しています。
特許権は、設定登録によって発生します。しかし、特許権の存続期間は、出願から20年をもって終了し、存続期間の満了と共に終了します。更新はありません。
例外的に、医薬品等の安全審査の期間が長期にわたるため特許権成立後なかなか実施できないものについては、安全確保等のための許可手続に要したため実施できなかった期間(上限は5年)について、存続期間が延長されることがあります。
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